直径100キロを優に超えてだらだらと広がるフェニックス都市圏をようやく脱出すると、そこには人の住まない広大な空間が広がっている。

ツーソンやフラッグスタッフなどいくつかの町を除くと、アリゾナ州には経済的に自立した昔ながらの小さなコミュニティーがすべて亡くなってしまったかのようだ。そんな中でフェニックス都市圏だけが巨大なマグネットのように人とマネーを吸引しつづけ、どんどん膨張している。

アリゾナ州第2の都市ツーソンですら、フェニックスの影では元気がないように見える。リーマンショックが引き金となった不景気がこのトレンドの背景にあると思う。

かつてツーソンで知り合ったダンサーやミュージシャンが、この数年少しづつフェニックスに引越してきた。ぼくのジャンベの先生マーティンも、コンゴからの移民してきたプロダンサーのマビバも、昨日登場したアントンも。

しかし、フェニックスはそんなアーティストたちにやさしい街ではない。

較べてツーソンはリベラルな大学町という趣がある。土曜の夜の4th Avenue(概して地元経営の小さなショップやレストランが軒を並べている通り)にはライブ音楽が溢れ、開放的な雰囲気が漂う。どんな大きな街にもアーティストやヒッピーっぽい人たちがが生息する地区があると思うのだが、フェニックスには、そんな、ちょっと怪しげで息をほっと抜けるような場所がほとんど見当たらない。そして場所の問題以上に、アーティストを支援するコミュニティーが弱いように思われる。

そして、マーティンはツーソンに戻り、マビバはカリフォルニアへ、アントンはメキシコに引っ越していった。

そんなフェニックスにも好ましい変化は見て取れる。ぼくがフェニックスに引越ししてきた頃のダウンタウンは、中心のオフィスビル街をのぞくと極めて荒んでいた。今ではアートギャラリーやレストラン、カフェなどができ、毎水土のファーマーズマーケットも始まり、見違えるようになった。10年ほど前に細々と始まった毎月第一金曜日夕方のアートイベントも、警官が交通整理にかりだされるほどの人出だ。ダウンタウンに限らず、様々なコミュニティーイベントも、不景気を乗り越えてだんだんとまた多くなっているように感じる。

こういう変化の積み重ねで、もうちょっとアーティストにも住みやすい街になってくれたらいいなと思う。

タイトル写真はアントン(右)。

(第35回)

*REVOLVER dino network 投稿 | 編集