ノラが我が家に来た経緯を話すと、みんな「あなたが犬を選んだんじゃなくて、犬があなたを選んだよの」といってくれる。なんだかまんざらでもない。
我が家に来るまで、ノラは野良だった。
最初は、我が家の前庭に毎日のように現れ、そのうち、まだ子犬だったリリィとゲート越しに仲良さそうにするようになった。そんなある日の夕暮れ時、リリィと散歩から帰ってくると、玄関のドアがバーンと開いている。ややっ、泥棒に入られたか!という思いがよぎる。そーっと近づいていって、恐る恐る玄関先から中をのぞくと、例の野良犬がお行儀よく座って、こっちをすずしそうに見ていた。
日中ひとりきりでさびしそうなリリィの遊び相手になってくれるかなとおもって、一晩泊めてみることに。そしてそのまま我が家の一員になり、野良はノラになった。
* * *
その後しばらくすると、ご近所さんから断片的に野良時代のノラの話が聞こえてきた。曰く「路地で出産して子育てしてたら、保健所が来て赤ちゃんを連れ去られ、その後しばらく、居なくなった赤ちゃんを探して路地を彷徨っていた」。曰く「前足の先っぽが白いから、ソックスって名づけてたの」とか。
我が家にきても長い間、野良の性が抜けないのか、何事に対しても臆病でびくびくしていると思ったら、何かのきっかけでスイッチが切り替わると突如大胆な行動をとるノラ。目と目をあわせることができなくて、甘えることがへたなノラ。そのうち、雪がゆっくりと溶けるように、時間をかけてだいぶココロを開いてくれるようになった。今でもぼくにべたべたされるのが嫌いで、尻尾がぼくの足に軽く触れるか触れないくらいの微妙な距離感で、大きなお尻をこっちにむけて、むんと腹ばいになってくつろいでいる。
タイトル写真は、我が家に来たばかりの頃、体全体をソファーの下に隠して寝ているノラ(2004)
ノラ(2007)
ノラ(2010)
ノラ(2011)
ノラ(2013)
ノラ(2014)
(第36回)